定本 日本近代文学の起源 (岩波現代文庫)

近代文学の起源を通して、明治維新期を境に日本人の精神が劇的に変化したこと、そしてその過程を丹念に描いています。精神が変化したというより、人間の内面と外面というのがそこではじめて生まれたのですが…。僕の読書能力は、有名な哲学書を読む力量はないが、東浩紀や彼と関わりの深い人たちなどの文章は理解できるという程度です。その僕にとって、この本を読むのはかなり難しかったです。時間をかけて、ページを行ったり来たりしながら読みました。しかしこの本を読むことで、今の自分がどういう存在であり、それがどのような理由でかたちづくられたのかが分かりました。さらにそこから好きだった文学、映画、芸術のそれまで謎だったことが、まさに目の前の雲が吹き飛んで行くかのように一気に解決し、それどころか、それまで見えていなかったことが見えるようにさえなりました。また後半は、「子供」はいつ生まれたか、病気の原因は何かなど、前半の理論を応用して、物事の見方を180度変えてくれるような刺激的で楽しい話が続きます。もちろん多くの哲学書と同じように、この本に書かれていることが完璧な真実なのかを判断できる人はいないでしょう。それでもこの本を読まずにいたら、人生においてあらゆるものごとを勘違いしたまま過ごしたことでしょう。この本に出会えていなかったらと思うと、ゾッとします。本当に、この本を読んで良かったです。